第2章 凱旋(1)

前頁より



 1067年3月上旬、きらびやかに飾り立てた一時帰国の騎馬軍団は、
捕虜の高官たちを引き連れてロンドンを出発し、最初の上陸地点であ
ったペベンジーの濱に向かった。

 イングランド南部の広大な森林地帯を「ダウンズ」という。
森を抜け、ハロルド軍団と大激戦を展開したバトルの丘を通過した時、
流石に全員感慨無量なものがあった。

 ペベンジーに着いた一行は、浜辺にひざまずき、神に勝利の祈りを
捧げた。感慨無量の一体感が、再びノルマンディーの騎士団の胸に
広がっていた。
 ウィリアム王は、「勝利と和平」の意味をこめて、すべての乗船を真
っ白な帆で新調させていた。

 ウィリアム王は、高らかに宣言した。
「乗船開始!」
「ウォー!ウォー!ウォー!」
と、浜辺に大歓声が上がった。

 船は穏やかな海面を滑るように南へ向かった。



 旗艦に乗っているウィリアム王の側には、イングランド遠征に従軍し
て戦火をくぐってきた少年王子がいた。次男リチャードである。
 嫡男ロバートは、ウィリアム公に万一の事態が生じた場合には、ノル
マンディー公爵の後継者であるとして出兵前に諸侯に公表し、公妃マ
チルダと共に郷土に残していた。
リチャード王子は兄ロバートにあれも話そう、これも自慢しようと、部下
と語り合っていた。

 凱旋の船中は、春の青空の下、底抜けの談笑に溢れていた。
リチャード王子の運命がその後大きく変わろうとは、誰も予想できなか
った。



第2章 凱旋(2)

「われ国を建つ」目次へ戻る

「見よ、あの彗星を」目次へ戻る

ホームページへ戻る